カテゴリー別アーカイブ: 不動産投資(基礎編)

【不動産投資評価】売買価格 -その2-

前回に続き「不動産の売買価格」についてのお話しです。

あなたが「この不動産は幾らですか?利回りは何パーセントですか?」と質問した答えとして、「この不動産の値段は1億円です。利回りは10パーセントです。」と言われたとします。この答え方はある意味正解ですが、ある意味において不十分で不正確なものになります。

その二つ目の問題点は、対象物件に入居している賃借人から売主が預かっている敷金・保証金などの取り扱いがどうなっているのか不透明という点になります。

不動産を賃借する際に、所有者に対して差入する敷金や保証金などは、通常、賃借を終了し退去する際に所有者から賃借人に対して返還されることになります。(一般的に退去時の原状回復工事の費用などを差し引いて返還されることが多いかもしれませんが、それについてはまた追って言及するとしてここでは一旦無視します。)
つまり、所有者は入居者に敷金や保証金を返還する債務を追っていることになります。その債務のことを、敷金返還債務、保証金返還債務といいます。

居住用物件では、敷金は一般的には家賃の2ヶ月分などであり、物件の売買価格と比してさほど高額になることはないのですが、事業用物件については、家賃の10ヶ月分やそれ以上の敷金・保証金が差入れているケースも珍しくなく、中には売買価格の10%以上の敷金・保証金返還債務が存在するような物件も存在します。

その敷金・保証金返還債務を売主買主間でどう承継し、引継ぎするのかという問題があるのですが、商習慣上は主に2種類の方法が存在します。
売買代金が消費税別1億円で敷金返還債務が1千万円の物件を例に確認してみたいと思います。
【東京方式】
売主が負担する入居者に対する敷金返還債務を買主が承継する見返りとして、敷金返還債務相当額の金銭を売主が買主に対して渡す方式。
つまり、例のケースの場合、買主は1千万円の敷金返還債務を負う代わりに、売主に対しては1億円(消費税別)から1千万円を差し引きした9千数百万円を支払いすればよいことになります。

【大阪(関西)方式】
売主が負担する入居者に対する敷金返還債務を買主が承継するだけで、その見返りの金銭交付は特にない。
つまり、例のケースの場合、買主は売主に対し1億円(消費税別)を売主に対し支払いし、それとは別に入居者に対する敷金返還債務1千万円を負担することになります。

上記の2種類の承継方法は、あくまでも売主買主間での合意に基いて決められるものであり、どちらが良い方法であるというものではないのですが、不動産の売買価格として判り易いのは明らかに東京方式になります。敷金返還債務は、今直ぐにお金は必要ではないですが、入居者が退去する時には必要になる債務であり、入居者からの借金と同じような性質のものです。大阪(関西)方式では、投資する不動産が1億円の値打ちがあると思って買おうと思った後に、「別に1千万円の借金がついてますんでよろしく。」と言われるようなものです。非常に判りづらく、フェアな価格提示でないことは明らかなのですが、関西では今でも大阪方式が主流となっています。
※敷金承継東京方式では、実質的な不動産取得価格は1億円(消費税別)、敷金承継大阪方式では実質的な不動産取得価格は1億円(消費税別)+1千万円となります。敷金承継方法が東京方式なのか大阪方式の差で、実質的な不動産取得価格が10パーセント変動することもあるのです。

ここまでこの記事を読んで頂ければ、あなたが「この不動産は幾らですか?利回りは何パーセントですか?」と質問した答えとして、不動産会社が「この不動産の値段は1億円です。利回りは10パーセントです。」と答えた時、その不完全さが理解できると思います。
そのような場合は間髪入れずに、「その値段は消費税込み?別?敷金承継は東京方式?大阪方式?」と質問し、「本当の売買価格」を確認する必要がありますが、そもそも、居住用の投資物件の購入なのに、1億円が消費税別、敷金承継大阪方式の前提で利回り10パーセントと答える不動産会社から物件を購入するのは避けた方がよいと思います。

【不動産投資評価】売買価格 -その1-

収益不動産や事業用不動産に投資を行う場合には、対象不動産を適切に評価し、その不動産を取得・保有・売却する際の各種リスク、法令などを調査するデューデリジェンス(DD)が必要になります。

不動産は投資対象として税制的にも優遇されていることに加え、実物資産であり基本的には安定した資産ですが、投資を行う場合には知っておかなければならない要素が多岐にわたります。このシリーズでは、不動産投資における様々な要素を一項目ずつ深く掘り下げてご紹介していきたいと考えております。

初回は、不動産に投資する時に誰もが意識する「売買価格」についてです。不動産に投資する時に、「まずこの不動産は幾らなのか?」と最も気になる要素であり、非常にシンプルな話しだと感じますが、意外と奥が深いです。

例えば、あなたが「この不動産は幾らですか?利回りは何パーセントですか?」と質問した答えとして、「この不動産の値段は1億円です。利回りは10パーセントです。」と言われたとします。この答え方はある意味正解ですが、ある意味において不十分で不正確なものになります。

一つ目の問題点として、1億円という値段は、消費税込みの値段なのか?消費税別の値段なのか?が判りません。不動産売買においては、その不動産について土地が幾ら、建物が幾らという内訳を売主買主間で決めた後、建物部分について消費税がかかることとなります。この場合、土地5千万円、建物5千万円の不動産であると仮定しましょう。本日時点の消費税率8%で計算すると、建物の消費税額は4百万円になります。つまり、このケースで1億円が消費税別の場合、消費税込みの価格は1億4百万円になることとなります。消費税別では、利回り10パーセントでも消費税込みで計算すると9.61パーセントとなってしまいます。

※補足説明になりますが、利回り計算の分母とする売買価格は、アパートやマンションなどの居住用資産については消費税込み価格、オフィス、店舗、ホテルなどの事業用資産については、消費税別価格を提示するのが一般的に妥当と考えられています。理由としては、居住用資産から生じる賃料収入は基本的に消費税が課税されない非課税売上となり、事業用資産から生じる賃料収入は基本的に消費税が課税される課税売上となるのですが、その物件から生じる課税売上の比率に応じて、購入代金として支払いした消費税の還付を受けれるからという考えがベースにあります。つまり、アパートやマンションなどの居住用資産は購入時に支払いした消費税は払いっぱなしとなるが、オフィス、店舗、ホテルなどの事業用資産については購入時に支払いした消費税は後日還付を受けられることが基本となります。(購入主体となる法人や個人の消費税の取り扱い方法や、購入物件を買う前の課税売上割合などによっても還付を受けられるか受けられないかが変わるため、詳細は税理士などの専門家にご相談下さい。)

二つ目の問題点は・・・。次回ご説明させて頂きたいと考えております。