詐害行為取消権とは、銀行から借金をしたり、買掛金などで仕入れをしたりしている不動産の売主が債権者を害することを認識しつつ自らの財産を売却するなどして財産を積極的に減少させた場合に、債権者が裁判上その法律行為を取り消して財産を返還させ、責任財産(抵当権や先取特権を有しない一般の債権者が債権を回収する際に引き当てとなる債務者の財産のこと)を保全するための制度です。
簡単に言えば、業績が大変厳しく、財務内容が悪い(債務超過等)状態で多額の借金がある法人等が、唯一所有している不動産を市場価格より安い値段で友人に売却したり、贈与したりして資産を逃がしてしまうことが許されてしまうと、その法人等が破綻した時にその法人に債権を持っている人が回収できるお金が減ってしまうことになります。その様な行為を行わせないために、詐害行為取消権というものが金銭債権者に認められています。
しかしながら、この詐害行為取消権が存在することにより、例えば債務超過状態にある法人など、財政状態が厳しい状況の売主から不動産を買おうとすると、例え売買価格が時価であると認識している全くの善意の買主であったとしても、売主に詐害の意思があった場合には、債権者からその売買を後日取り消しされてしまうかもしれないということとなり、法律的に非常に不安定な状態に陥ってしまいます。善意の買主は、それを避けるために、売買価格が妥当であることの第三者意見として鑑定評価書を取得したり、売買契約書上に「売主は詐害の意思がない」と記載してもらったりと色々な手当てをするものの、どこまで行っても後日、詐害行為取消が絶対にされないという状態にすることは法律的に不可能でした。
2018年以降に予定されている民法改正においては、詐害行為取消しの対象が不明確かつ広範だと、経済的危機に直面した債務者と取引する相手方が萎縮し、再建可能性のある債務者が破綻に追い込まれるおそれがあり、それを避ける目的で、債務者の財産や経営状況が悪化した場合の処分行為について、詐害行為取消の対象となる範囲が限定されることとなりました。
具体的には債権者は、次の3要件に全て該当する場合に限り詐害行為取消請求をすることができる(新民法424条の2)ことになりました。
①債権者を害する結果となり
②売主に債権者を害する意思があり
③買主がその意思を知っていた場合
買主が、売主の詐害の意思を知らなければ、詐害行為取消とならないのですから、非常に法律的に安定することとなります。この改正により、経済的危機に直面した債務者も資産を売り易くなることから、債務者の事業再生の可能性があがることとなると考えられます。