【不動産】仲介手数料無料で消費者は本当に得をするのか?

数年前より、不動産賃貸仲介会社を中心に「仲介手数料無料」という宣伝文句が広がっています。

住宅を借りる際に発生する家賃の一ヶ月分相当額の仲介手数料が安くなるということで、一見すると得と考えられるのですが、仲介手数料無料に飛びついた消費者は本当に得することができるのでしょうか。

今まで住宅を借りる際に必要であった家賃の一ヶ月分相当額の仲介手数料をなぜ無料にできるのか、その仕組みから考えなければなりません。不動産賃貸仲介会社は、住宅を借りたいお客さんと、住宅を貸したいオーナーさんを繋いで賃貸契約を成立させることにより発生する仲介手数料で糧を得ています。より良い条件の住宅を安い家賃で借りたいお客さんと、あまり良い条件でない住宅(すなわち安く買った物件)を高い家賃で貸したいオーナーさんを繋ぐのが仕事な訳です。オーナーさんは、沢山の手数料(例えば家賃の3ヶ月分というケースを想定)を賃貸仲介会社に払ってでも、あまりよい条件でない住宅を高い家賃で貸した方が得をします。なぜなら、何もしなければ空き家のまま一円の家賃も入ってこないままですが、3ヶ月分だけ手数料として支払いすれば4ヶ月目以降分からは家賃を得ることができるからです。
(厳密に言えば、3ヶ月分の手数料のうち、1ヶ月分は仲介手数料として、残り2ヶ月分は広告料という名目でオーナーさんから賃貸仲介会社に支払いされます。宅地建物取引業法という法律で、賃貸仲介会社は家賃の1ヶ月分以上の手数料を仲介手数料として得てはいけないという規制があるため、入居者を集めるための広告料の名目で別に手数料を得ていることになります。)

この場合、賃貸仲介会社は一円の手数料も払ってくれない住宅を借りたいお客さんと、手数料を沢山くれる住宅を貸したいオーナーさんのどちらの希望を重視して賃貸契約を成立させようとするでしょうか?誰がどう考えても、オーナー側に有利な条件で賃貸契約を成立させようとするのは明確です。

不動産というは、相場があるのですが、見る人によって感じる価値というのが異なる商品であり、非常に価格の妥当性が判りにくい商品です。インターネットの普及により住宅を借りようとするお客さんも、自身でインターネット等を活用し、周辺の相場を調べて価格の妥当性を判断できる人もいますが、そうでない人の方が多いのが実情です。

アメリカやイギリスなどでは、不動産の賃貸仲介に限らず、大型の企業買収などのコンサルティングにおいても、売主・買主双方の代理を行う所謂両手仲介は禁止されております。本来、買主側の仲介会社であれば買主の利益の最大化をはかるためだけにアドバイスを行うべきところ、売主・買主双方の代理を行っている人間が、それぞれの利益の最大化のアドバイスができるはずがなく、利益相反行為にあたるため禁止されているのですが、この日本では時代遅れのこの仕組みが今でも存続しています。2009年に民主党政権がこの両手仲介を禁止しようとしましたが、不動産業界の猛反発で頓挫した経緯があります。なぜ不動産業界は猛反発するのか?両手仲介ができた方が不動産業界が儲かるからです。両手仲介はできるのに、仲介手数料には上限を設けているこの法規制は時代遅れとなっているのは明確です。

「ただより高いものはない」という先人が経験的に知った真実があります。この言葉は、この世の中のビジネスの成り立ちを的確に語っていると思います。