日本の不動産マーケットにおいては、建物の寿命はおおよそ30年、長く見積もっても50年という共通の理解があります。地震が頻繁に発生する土地柄、築50年の建物なんていつ倒壊するかわからず怖くて仕方がないという感覚を多くの人が持っています。
日本の建物に対する耐震基準は大きな地震による被害が発生するたびに、より厳しく、より地震につよい基準に変化してきています。耐震基準が変化するたびに、耐震基準が変化する前に建てられた建物は、「旧耐震基準」の建物と呼ばれるようになり、借り手や買い手が少なくなっていくことから自然に淘汰され、新たな耐震基準の建物に建て替えられる流れとなります。
この様に建物の寿命が短いと考えられている日本においては、建物を建築した後に建物のリニューアルやリノベーションなどの追加の投資をするという考えが乏しいのが実情です。昨今、リノベーション住宅という言葉が浸透し、新築の建物より、安い築古の物件を購入し、自分好みの内装にリノベーションすることの認知度が広がってきていますが、不動産の売買マーケットにおいては、リノベーションをしても、その建物の価値は、リノベーションにかけたお金を大幅に下回る金額しか価値が上昇しないマーケットとなっています。
一方、イギリスに代表される欧米の不動産マーケットにおいては、 代々建物のリニューアル、リノベーションを繰り返し100年を超えるような建物が沢山存在し、手をかければかける程、建物の価値は上昇していくというマーケットになっています。手をかけて、歴史を積み重ねていった建物ほど、高い評価を得られるマーケットであり、リニューアルやリノベーションにお金が必要であっても、かけたお金以上の建物価値の上昇が見込めるため、皆が建物を大切に長く使おうとすることになります。
上記の考え方の違いが、建物の減価償却の考え方にも影響を与えています。
日本においては、不動産を取得するときに、売買代金のうち土地、建物それぞれ幾らの内訳とするのかを決めます。イギリスでは、不動産は建物は幾らとか土地は幾らとか区分して売買されるわけではなく、通常は土地と建物を一括して「土地および建物」として売買されます。また不動産を貸借対照表(B/S)に計上する時にも両者を区分せず「土地および建物」としてひとつの資産として計上します。
土地と建物に区分されていないことに加え、手入れさえすれば数百年でも使える建物の耐用年数をどうするのか?という問題もあります。耐用年数を合理的に見積もることが非常に困難なのです。
このような事情のため、イギリスでは土地と建物を一つの有機的な構成物とみなし、定期的に時価評価を実施して建物に生ずる経年での減価を認識することになっています。日本のように、RC造は何年、S造は何年で償却というように簡単に経済的価値の経年での減価を計ることができないのです。
ビジネスにおいて、イギリスの減価償却の方法は煩わしく効率が悪いように思いますが、古きよき建物を後代に遺していくという観点では素晴らしい制度だと感じます。
日本は地震が多いという特殊性はありますが、建築技術の向上や、税制の改革などで日本においても古きよき建物を後代に遺せるように舵を切る時代が目の前まで来ていると思います。